高市首相の言行不一致こそ脅威―非核三原則見直しにウクライナを利用するな

高市首相や小泉防衛相など政権与党周辺では非核三原則見直しの議論が盛んになってきている
今年も8月6日がやってきました。広島では平和記念式典が厳かに開かれ、高市首相が「核兵器のない世界」を訴え、それをNHKをはじめとするメディアが広く伝えています。しかし、高市政権下では、日本の国是である非核三原則(核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず)の見直しを公然と議論する動きが強まっています。式典で「核なき世界」を語りながら、一方で非核の国是を揺るがす議論を進める。こうした矛盾は日本にとっても世界にとっても極めて危険なものです。
【志葉からのお知らせとお願い】ウクライナやパレスチナなどの紛争地での現地取材や地球温暖化対策、脱原発、入管問題などで鋭い記事を配信し続けるジャーナリスト志葉玲が、ジャーナリズムの復権と、より良き世界のための発信をテーマにニュースレターを開始。本記事を含め、当面、無料記事を多めに出していきます。お知らせのための登録だけなら無料ですので、是非、以下ボタンからご登録ください。Journalism will never die!!
〇高市首相は言っていることとやっていることが正反対
「我が国は『非核三原則』を堅持しており、唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界の実現に向けた努力をたゆまず続けていく使命を担っている」―今月6日の広島での平和記念式でそう述べた高市首相ですが、言行不一致が甚だしいと言わざるを得ません。実際には、非核三原則の見直しが高市首相の持論で、今年末の安全保障3文書の改定でも、非核三原則が見直されるのではないかと被爆者団体等は懸念しています。これまでも、日本はむしろ「核廃絶の足を引っ張る国」であると、核兵器禁止条約の国際会議に参加する各国の政治家や平和運動家達から指摘されてきました。唯一の戦争被爆国でありながら、条約への署名も、国際会議へのオブザーバー参加さえ拒み続ける姿勢が批判されてきたのです。根底にあるのは、米国の「核の傘」に深く依存する日本の外交方針があり、さらに依存を深めようとする高市首相は実質的に被爆国、平和国家としての看板を下そうとしているのです。
〇ウクライナ侵攻でむしろ揺らいだ核抑止論
しかし、近年、核抑止諭は大きく揺らいでいます。高市首相含め非核三原則見直し論者はロシアによるウクライナ侵攻をその口実にしていますが(関連)、むしろ、実際にウクライナ侵攻で起きていることこそ、核抑止論を否定しています。ロシアは米国と並ぶ世界最大の核保有国でありながら、ウクライナ侵攻で一発も核兵器を使っていません。むしろウクライナのドローン攻撃で石油関連施設などのインフラを繰り返し破壊され、戦況を有利に進めることすらままならない状況に追い込まれています。
戦術的に核兵器が有効ではなかったという側面もありますが、それ以上に大きかったのは「核兵器を使えば、ロシア自身が取り返しのつかないリスクを負う」という現実です。中国やインドは強く反対し、特に中国は「核兵器使用なら支持を失う」と最終通告に近い形で牽制したと複数の海外メディアが報じています。ブリンケン元米国務長官も「中国がロシアに『そこへ行くな』と伝えた」と認めています(関連情報)。アジアやラテンアメリカ、アフリカ等のグローバル・サウス諸国からも非難が広がり、核を使えばロシアは「即座に『のけ者』になる」と「フォーリン・アフェアーズ」誌をはじめとする専門誌やシンクタンクが警告してきました。

<a href='https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/5c74568a7cd3b3e5f49e1dcf674e004d1f8e0499' target='_blank' rel='nofollow noindex noreferrer'>news.yahoo.co.jp/expert/article…</a>小泉防衛相「炎上」が露わにした高市政権の「人でなし」ぶり―ウクライナを利用しロシアに媚びる卑屈(志葉玲) - エキスパート - Yahoo!ニュース 先月末、小泉進次郎防衛大臣のX(旧ツイッター)での投稿に同SNSで批判が殺到。いわゆる「炎上」常態となりました。NATnews.yahoo.co.jp
〇「ヒロシマ・ナガサキ」が核兵器をタブー化させた
こうした核兵器のタブー化に「ヒロシマ・ナガサキ」の影響が極めて大きいことは、ブラウン大学の政治学者ニーナ・タネンワルド氏の学術研究や複数の国際政治専門誌が明確に述べています(関連情報)。そして、これは「ノーモア・ヒロシマ、ナガサキ」という戦後81年間の訴えが、国際社会に少しずつ、しかし確実に浸透してきた結果なのです。特に重要なのは、冷戦の緊張が高まった1960~1980年代に被爆者運動が精力的に国際活動を展開したことです。キューバ危機やヨーロッパへの中距離核ミサイル配備計画などで核戦争の脅威が現実味を帯びる中、被爆者たちは国連軍縮特別総会に代表団を派遣し、1982年には山口仙二さんが国連総会で初めて被爆者として演説しました。この時期の精力的な国際活動が、核兵器を「人類共通の脅威の象徴」として世界に深く根付かせた最大の要因の一つです。
さらに、欧米だけでなくグローバルサウス諸国でも、「ヒロシマ・ナガサキ」の悲劇は広く知られています。その背景には、反植民地主義・非核地帯化の動きと、被爆者証言の国際展開があります。例えば、1962年にガーナで開かれた「爆弾なき世界」会議には、広島市長や被団協の代表が参加し、アフリカの非核運動に影響を与えました。また、ラテンアメリカでは、ブラジル・サンパウロに1984年に被爆者協会が設立され、証言活動を通じて現地で「ヒバクシャ」の認知を広げました。中東においても、イラクやパレスチナ、レバノン等での紛争地取材の中で、筆者自身、「日本から来た」と伝えると、現地の人々の表情が変わり、「ヒロシマ・ナガサキ」の言葉が自然と出てくるということを何度も経験してきました。核兵器のタブー化、核を「使ってはならないもの」とする国際世論は、まさに「ヒロシマ・ナガサキ」を中心に形成されてきたものなのです。

広島を訪れたガザ出身の学者・ジャーナリスト・アーティストのシャハッド・アブサラマさん(右) 昨年12月、筆者が撮影 関連記事:https://imidas.jp/insight/d-40-171-26-04-g628/
〇イスラエルに広島・長崎で平和を祈る資格はない
このような反核運動の世界的な文脈から考えると、今年の広島の式典にイスラエルの大使が参加していることは非常に残念です。ウクライナ侵攻でロシアが招待されていない一方で、ガザ攻撃、レバノン攻撃、イラン攻撃を続けるイスラエルが、のうのうと「平和を祈っています」とアピールできるのは、いかがなものでしょうか。さらに、広島・長崎の原爆被害の普遍性は、核兵器の恐ろしさだけではありません。つきつめれば、非戦闘員である一般市民が大量に殺害されたということです。このような戦争犯罪を許してはならないという人々の感情や国際法上の原則といった普遍性こそが、「ノーモア、ヒロシマ・ナガサキ」が世界に広がった大きな要因でしょう。だからこそ、この間、虐殺を続けるイスラエルに対し、日本として、広島として、もっと強い姿勢を取るべきではないでしょうか。言葉だけで「平和」を語るのではなく、行動で示すことが求められているのです。

イスラエルに破壊されたレバノン南部スール市中心部 2026年6月 筆者撮影
〇日本は被爆国、平和国家の看板を下ろすな
広島・長崎の平和記念式典に毎年、世界の首脳や外務大臣、大使などが参加するようになる等、日本が国際社会の中で核廃絶への強い影響力を今なお持っていることは確かでしょう。しかし、そうした中で、日本が「核廃絶」の看板を本当に下ろし、核抑止依存をさらに深めていくならば、それは日本にとっても世界にとっても非常に危険なモラルハザードになると危惧します。核のタブーを自ら弱体化させる行為になりかねないからです。日本は被爆国、平和国家としての責任を、いま一度、真剣に問い直す時だと思います。日本は被爆国、平和国家としての看板を下ろすのではなく、むしろその看板を真正面から掲げ直すべきではないでしょうか。
(了)
【志葉からのお願い】本記事はいかがだったでしょうか?SNS等での拡散、シェアにご協力いただければ幸いです。また、読者登録(登録だけなら無料)も是非よろしくお願い致します。
すでに登録済みの方は こちら
提携媒体
コラボ実績
提携媒体・コラボ実績