18年の愛、国家が潰して良いのか?日本人と結婚したスリランカ人に非情の判決、司法も問われる存在意義
ナヴィーンさん(左端)と、なおみさん(左から2人目) 筆者撮影
結婚という個人にとって極めて重要なものを国家が理不尽に潰そうとする―スリランカから迫害を逃れて来日したナヴィーンさん(43)は、日本人女性なおみさん(53)と出会い、10年程の交際を経て、2016年に結婚しました。ところが、法務省/出入国在留管理庁(入管)は、今なお、ナヴィーンさんの在留資格を認めていません。二人は、国に対しナヴィーンさんの難民認定や在留特別許可を求め、2022年に訴訟を起こしましたが、今月17日、東京地方裁判所(品田幸男裁判長)は二人の請求を棄却しました。なぜこのような理不尽な状況になっているのか。判決後の記者会見でナヴィーンさんとなおみさんに取材しました。
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〇結婚後も在留認めず収容施設に拘束
ナヴィーンさんが来日したのは、2004年のこと。母国スリランカで政治活動を行っていたところ、対立政党の支持者らから襲撃を受け、鉄パイプで激しく殴られて大けがを負いました。命の危険を感じたナヴィーンさんは語学留学することで日本へと逃れました。
2005年、ナヴィーンさんはなおみさんと出会い、お互いに好意を持ちますが、当時、なおみさんは幼い子どもを抱えるシングルマザーであったため、「子どもが育つまで結婚は待ってほしい」と伝え、ナヴィーンさんもそれを受け止め、待つことにしました。
同じ頃、ナヴィーンさんは留学先の日本語学校に払う授業料を仲介業者に横領され、学校に通えなくなってしまいます。そして、同年の12月に在留資格を失ってしまいますが、迫害の恐れがあるためにナヴィーンさんにとって、帰国したくても帰国できない状況でした。2013年には難民認定申請も行いましたが、法務省/入管側はそれを認めるどころか、退去強制令書を発付します。
その後も、ナヴィーンさんとなおみさんは交際を続け、2016年に正式に結婚し、法的に夫婦となったにもかかわらず、法務省/入管側はナヴィーンさんに在留資格を与えようとしません。そのため、ナヴィーンさんは就労することもできず、結婚後も2017年、入管の収容施設に10カ月にわたって拘束された上、最悪の場合には、今後、スリランカへと強制送還される恐れもあります。ナヴィーンさんとなおみさんは、裁判を起こしましたが、上述の通り、東京地裁の判決は非情かつ理不尽なものでした。
〇憲法判断から逃げた東京地裁
東京地裁は、迫害される恐れがある難民だとのナヴィーンさんの主張を認めず、「スリランカ政府が迫害を容認しているとは言えない」として、法務省/入管側の主張を追認。また、難民として認定されなくても、なおみさんと夫婦として日本で生活するための在留特別許可を認められないことは不当だとのナヴィーンさんの主張を、東京地裁は退け、「婚姻関係は不法残留という違法状態の上に築かれたものだった」として、これまた法務省/入管の主張を丸飲みしたのでした。
東京地裁の判決や法務省/入管側の姿勢、とりわけ、なおみさんとの結婚生活のためのナヴィーンさんの在留特別許可を認めないということは、法的にも極めて大きな問題があります。二人の代理人である浦城知子弁護士、桐本裕子弁護士は、「夫婦には家族共同生活する権利(憲法24条1項、13条)、家族への不法な干渉を受けない権利、家族として保護を受ける権利(自由権規約17条1項、23条1項)があり、ナヴィーンさんとなおみさんの婚姻は、在留特別許可を認めるための積極的な事情をして考慮されるべきでしたが、憲法や国際条約からの判断を裁判所はしませんでした」と残念がります。
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〇偽装結婚ではないとわかっているのに…
実際、オーバーステイ等で退去強制(入管法24条)の対象とされても、法務大臣は「特別に在留を許可すべき事情」がある場合、職権で在留を認めることができると、入管法50条1項に規定されています。また、在留特別許可のガイドライン(2024年3月改定)では、在留特別許可を認める際に考慮する事情の一つとして、日本人と結婚していることがあげられ、
「当該外国人が、日本人又は特別永住者と法的に婚姻している場合(退去強制を免れるために、婚姻を偽装し、又は形式的な婚姻届を提出した場合を除く)であって、夫婦として相当期間共同生活をし、相互に協力して扶助しており、かつ、夫婦の間に子がいるなど婚姻が安定かつ成熟していること」
と、具体的に書かれています。ナヴィーンさんとなおみさんの間に子どもはいませんが、10年の交際を経て、8年余りも結婚生活を続けてきたことは、「夫婦として相当期間共同生活をしたこと」「婚姻が安定かつ成熟していること」として考慮されるべきなのです。実際、会見でナヴィーンさんは「入管側は『あなた達が偽装結婚ではないことはわかっている。だから(夫婦としての実態があるか確認する)訪問しての調査は必要ない』と言っていました」と語っています。
〇法の原則を無視する入管、東京地裁
一方、同ガイドラインは、「当該外国人が、過去に退去強制手続又は出国命令手続をとられたことがあること」はマイナス要因とされるとしていますが、この一点だけで上述した憲法上の「家族共同生活する権利」、国際条約上の「家族への不法な干渉を受けない権利」、「家族として保護を受ける権利」への侵害を法務大臣がしたこと、さらにそれを裁判所が丸飲みしたことは、極めて深刻です。
法の原則として、「上位法は下位法に優先する」「上位法に違反する下位法は無効となる」というものがあります。つまり、上位法である憲法や国際条約は、下位法である入管法に優先するのです。まして、法律ですらなく、法律の運用についての指針でしかないガイドラインの一部分だけをもって、憲法上、国際条約上の権利を個人から奪うとは、あり得ないことなのではないでしょうか。ナヴィーンさんに在留特別許可を認めなかった入管(具体的には当時の東京出入国在留管理局長)や、その判断にただただ追従した東京地裁の品田幸男裁判長は、法に関わる者としての資質に欠くと言っても過言ではないかもしれません。
〇入管のモラハラ、問われる「司法の独立」
上述したように、家族の絆を断ち切ろうとすることは、憲法上、国際条約上の重大な人権侵害です。そうした認識が法務省/入管側には著しく欠けています。なおみさんは会見で、入管職員らの不適切な言動について「本当に心が痛い」と語りました。
「入管から『旦那さんは退去強制発布されてるんだから、帰るように説得しなさい』って言われます。私は、妻としてやっぱり一緒にいたいわけなので、説得して帰らせる様なことは言わないし、できないんですよ」(同)
ナヴィーンさんとなおみさんの件に限らず、法務省/入管は、あたかも入管法24条が、憲法や人権関連のあらゆる国際法よりも上位の最高法規であるかのような振舞いを繰り返しており、それは国連の人権関連の機関や専門家から再三、是正するよう勧告を受けている問題です。法務省/入管のよく使う標語に「ルールを守って国際化」というものがありますが、ルールを守るべきなのは、法の原則に従うべきなのは、法務省/入管の側でしょう。
今回の判決を受けて、ナヴィーンさんとなおみさんは、近日中に控訴するとのことです。法務省/入管による人権侵害を、東京地裁の品田幸男裁判長のように、裁判所がただただ是認するのならば、三権分立としての司法の存在意義が問われます。東京高等裁判所が、より適切な判断をするよう、長年、入管問題を取材してきた筆者としても願ってなりません。
(了)
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